第10回 縣秀彦さん

●今回の本棚は「三鷹市 星と森と絵本の家(以下、絵本の家)」からお届けします。絵本の家は、国立天文台の旧 1号官舎を改築して7月7日にオープンした新しい施設です。この絵本プロジェクトに天文台側の担当として関わってきた縣さんに、絵本の魅力を語っていただきます。

(写真)月球儀をかかえて月テーマ絵本に囲まれた「くまちゃん」の縣さん

内気な子の絵本の城

なぜ星が好きになったの、とよく聞かれるのですが、僕の故郷は、長野県北安曇郡の人口が1000 人ほどの山村なの。で、もちろん星はきれいだったけど、一番の理由は、子どものころすごい人見知りする性格で…え、今の姿からからとても想像できないって(笑)…、いやホント、誰とも話をするのが苦手な、とても内気な子。だから、学校で落ち着く場所というと図書室で、これくらいの小さな部屋。蔵書も数百冊程度。じゃ、図書室の本を全部読んでやろうって、そういう子どもだった。その中でハマったのが、藤井旭さんの「科学のアルバムシリーズ」 (1) (2)。内気な子どもにとって、とてつもなく壮大な世界が存在しているんだと…。これは衝撃でした。

――その原体験が、絵本の家に結びついたのかも

…かもね。
で、今回は、そういう内気な子どもたちのために、絵本の家で、いまテーマ展示している「月」に関する本を紹介しようと思います。

――パチパチパチ(40 年前の縣少年にエールの拍手)

くまちゃんと月

イチオシはこれ、『14ひきのおつきみ』 (3)。
このシリーズは絵が精緻できれいでしょ。どこにどんな虫がいるのか探すだけでも楽しい。僕は、ひどい親でさ。

――?????

土日も仕事で家にいないの。男の子がふたりいるけど、親父とキャッチボールもロクにやったことない。

――となると、思い出が……

ないんだよ〜。で、唯一といっていいのが、3、4歳のときに一緒に読んだこの本。「絵本の家」の目的のひとつは、昔のように家族や地域で、みんないっしょにゆったり時間を共有しようよ、というもの。で、罪滅ぼしも含めて、これオススメ。この色合い、子供たちの情操教育にいいですね。


大正期の建物の懐かしさが童心を呼び起こします

次も、子どもさんに初めに読んでほしい絵本『おつきさまこんばんは』 (4)。表情が可愛すぎ。お月さまが友達みたい。
あー、なんだか、のんびりしてきたぞ〜、立待ち月、居待ち月、そして寝待ち月でゴロン」
(…と畳に寝転ぶ縣さん)

――ゴロゴロしないで、つぎ紹介してくださいませ〜

絵本の家スピリットに則ったまでで…。
『どこへいったの、お月さま』 (5)ですね。くまさんと月といえば、他人とは思えない親しみを感じるの。僕の愛称「くまちゃん」なの。ね、似てるでしょう(といつつメガネをとると…最初の写真参照・笑)。あと、寝待の月なら、秋の夜長に大人も楽しめる『月の本』 (6)。写真が美しくて、解説もためになりますよ。

そして絵本の果て


庭のハンモックで読書。おならジンバリング始動!

――つぎは、でたー、仕掛けモノ系

『うちゅう』 (7)は、JAXA 監修の仕掛け絵本。こういうのは子ども喜ぶんだよね。仕掛けは絵本ならではのアイデア満載で楽しい。
『どんぐりロケット』 (8)は、付録のペーパークラフトを web から入手して工作。内容は抱腹絶倒。一生懸命おイモを食べて、おなら推進で月へ。でも、子どもなら、一度はマジに考えるテーマかも。けっこう深いぞ(それに何か臭う・笑)


『どんぐりロケット』で盛り上がっていると、子どもたちがやってきました。

――そして、これは縣さんの本ですね

『月の大研究』 (9)。絵本の家の「月テーマ」に合わせて作った本だけどスタートに間に合わなくて(涙)。で、とにかく、僕は絵本を作りたいんです。絵本は何が素晴らしいかって、とにかく長く読み継がれること。何十刷とか当たり前。で、いい本は親から子へと読み継がれていく。子どもの心に一生残ります。だから逆にとても手強い。絵本を作ろうと思ったらね、発想やものの見方を、もう1回頭の中でリセットしなきゃダメなのが分りました。プロは、1冊の絵本を作るのに3年もかけるそうです。一見、簡単そうに見えることほど、その本質をつかむのは難しい。これ、科学の世界にも通じるとこありますよね。僕は絵本を究めたい


『パパ、お月さまとって!』 (10)の月の大きさが変化する仕掛けを堪能。
これ超えるの作りたい。


(左下)縣さん持参の自著『宇宙の謎を知りたい!』(集英社, 2000)は、背表紙ボロボロ。「日本科学未来館で、多くの人に読まれた勲章として館から頂戴して大事にしてます」
(中央・右)中国語の学習漫画も執筆。「ここ、中国語 の筆者紹介だと、縣先生が上田先生に。当て字だ〜(笑)」。


ここにいると子どもに戻っちゃう。オーイ(笑)

「絵本の家の書棚から『モチモチの木』(斎藤隆介作 ; 滝平二郎絵 - 岩崎書店, 1971)を。怖いんだよね、夜の木が。思い出す、子どものころ。泣きながら月を見て走る。これは僕だよ〜」

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