強度の酸性臭があり、劣化の進んでいるフィルムを再生するという作業を、
(株)手塚マイクロ写真商会の協力を得て2002年に行いました。 ベースフィルム(セルロースエステル)は一度加水分解が始まると酢酸が触媒となって分解が加速され、 連鎖反応が起こり短期間でベースが劣化するため、 他の健全なフィルムからの隔離と、密閉状態からの開放を急ぐ必要があります。 以下に手塚マイクロ写真商会が行った作業報告を記載します。 1・調査、初期作業の概要 缶のふたを開けると強烈な酢酸臭がし、保存状態による劣化の差こそあれ 全てのフィルムに加水分解による劣化が起こっていた。 最も進行したフィルムでは乳剤は液化しベースは大きく波を打ち原型をとどめず、 これまでに見た事が無い状況であった。 症状別ランクと処方一覧は次の通り。 |
ランク | 処方1:缶より開放 | 処方2:F-No書き込み | 処方3:吊るし、通風 | 処方4:DD可能の接続 | 処方5:DD作成 | 処方6:DD不可の収納 | 処方7:密封廃棄 | |
健全 | a | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
酸性臭あり | b | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
濡れている | c | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
変形-微(部分) | d | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
変形-中 | e | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
変形-大 | f | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
乳剤流状 | g | ○ | ○ |
数量は以下の通り。 A 36EXフィルム(ショート)の処理
B 前川仁郎氏所蔵フィルム(長尺)
その後グループ別、NO.順に整理したフィルムを解放系にする作業をスチール缶ごとに行った。 程度の差はあったが開缶と同時に強烈で刺激的な酢酸臭がし、作業者は咳き込んだりむせたりしながらの作業となった。 時折室外に出て一息ついてから作業を再開するといった状態であった。 フィルムベース面(乳剤)が液化したフィルムの処理では 使用した写真用白手袋はすぐに真っ黒に汚れ多数が使用不能になった。 フィルムは35mm・36EXのものが多く湿気を遮断し、カビの発生を防止しようとしたのか、 1本ごとにプラスチック又は金属(スチール)の缶に収納してあり、 キャップをセロハンテープで巻き、密閉度を高めていた。 中には巻いたフィルムをビニール袋にとじ込めさらに缶に収納しテープ巻きしたものも数多くあった。 これらの処置による密閉状態は、皮肉にも重要資料の保存を願った所蔵者の意思に反して、 加水分解の発生を促す結果になったようだ。 さらに、長期間、細く巻かれたフィルムは、強度の巻き癖がついており、処理作業は困難を極めた。 作業中窓は全て開け放ち、3台の扇風機と換気扇で悪臭を室外に放出しながらできるだけ風下から作業をした。 個人差があるが、苦痛を訴える者が出て、作業はたびたび中断せざるを得なかった。 2.中間作業の概要 初期乾燥後のショートフィルム(36EX)はアドレスを確保(フィルムにNo書き込み)した後、 錘をつけて吊るして通風、乾燥した。 巻き癖と酢酸臭はなかなか取れなかった。 長尺フィルムは、大型巻取り装置により通風、乾燥を繰り返した。 作業環境は劣悪を極めた。 3.厳密なフィルムの分類 レベルbからfまでフィルムを詳細に種分けした。 4.フィルムの接続 臭気が完全には抜けきらず、巻き癖も残るフィルムを接続、湿ったフィルムでは接続テープがはがれた。 再度乾燥させて接続した。 5.フィルムプリント フィルムプリント装置へのダメージ(装置が錆びた)を減少させるため プリント対象フィルムの再度の通風、乾燥、脱臭を行なった。 ワカメ状フィルムの変形による画像の周辺ボケが起こり、 濃度差のあるショートフィルムによる濃度ムラが頻発し多量のロスが発生した。 本ごとの目視による露光調整と低光量低速バキューム圧着で時間をかけて試行錯誤し品質を確保した。 |